「知らなかった」では戻せないものがある ― 期限つきの税務の選択と、顧問への3つの質問
税金の世界には、あとから直せる間違いと、あとから直せない選択の2種類があります。前者は気づいた時点で修正できます。しかし後者は、期限を過ぎてしまうと、どんなに正当な理由があっても選び直すことができません。
顧問を引き継ぐ立場でご相談をお受けしていると、この後者に触れる場面がたびたびあります。やってはいけないことをしていたのではなく、できたはずのことをしていなかった——そういう落とし穴に出会うことがあります。
この記事では、その「期限つきの選択」がなぜ漏れてしまうのかと、いまの顧問税理士に何を聞けばよいのかを整理します。誰かを責めるための話ではありません。今日確認すれば間に合うものが、まだ残っているかもしれないという話です。
1. あとから直せる間違いと、あとから直せない選択
記帳の科目を間違えた、経費の計上を漏らした、集計を誤った。こうしたミスは、気づいた時点で直せます。申告してしまった後でも、修正するための手続きがあります。だから、多少の間違いは、実はそれほど怖くありません。
怖いのはもう一方です。税金の制度には、「期限までに届け出をすること」や「決める前に手を打っておくこと」が適用の条件になっているものが数多くあります。この種の制度は、条件を満たしていなければ、そもそも選べません。あとから「知らなかったので今から適用したい」と申し出ても、期限を過ぎていれば通らないのが原則です。
間違いは直せる。選択は、直せない。
そして厄介なのは、選ばなかったことに気づく時期が、たいてい決算や申告の場面だという点です。その時点ではもう、選択の期限が過ぎてしまっていることが多いのです。
2. 「先に知っていれば」が起きやすい、4つの場面
期限つきの選択は無数にありますが、ご相談のなかで繰り返し現れる場面は、おおむね次の4つに集まります。
(1)事業を始めた直後・法人を設立した直後
この時期がいちばん提出漏れが起きやすいです。青色申告の承認を受けるための申請、消費税について課税事業者となることを選ぶための届出、家族に支払う給与を経費にするための届出——いずれも提出できる期限が定められており、その期限を過ぎると、その年(その事業年度)については制度の適用を受けられません。
開業や設立の直後は、営業活動や資金の手配を優先するあまり、細かい手続きに気が回らなくなりがちです。届出は「提出すれば済む事務手続き」に見えるため後回しになりますし、そもそも制度の名前を知らなければ、適用するチャンスを逃してしまう可能性が高いでしょう。
(2)役員報酬や役員賞与を決めるとき
法人が役員に支払う報酬は、金額を決められる時期や、経費として認められるための条件が細かく定められています。とくに役員に対する賞与を経費にしようとする場合は、支給する時期と金額を決められた期限までに届け出ておくことが条件になります。届出を提出せずに賞与を支払い、決算のときに税理士に相談しても、その支給分は経費になりません。
ひとり法人の場合、「うちは社長ひとりだから自由に決めていい」と考えてしまいがちですが、役員だからこそ制限されることも多くあります。
(3)消費税の計算方法を選ぶとき
消費税の納付額の計算方法には、原則的な計算方法のほかに、売上高をもとに簡便に計算する方法などがあり、そうした複数の計算方法から選択できる制度があります。どれが自社にとって有利かは、売上の分類、仕入や経費の構成、設備投資の予定によって変わります。有利不利が事業活動の内容により逆転するため、一般論では決められません。
そして選択には届出や申請の期限があり、さらに計算方法のなかにはいったん選ぶと一定期間は変更できないという制約が付くものもあります。つまり、届出を出す前に将来の事業活動の予定や見込みを考える必要があります。ここは自力での判断が難しい領域なので、専門家に相談することがとくに求められるでしょう。
(4)設備や資産の購入を決めるとき
設備投資について、税額の控除や早期の償却が認められる制度がいくつかありますが、事前に計画の認定を受けていることや、購入して事業に使い始める時期が条件になっているものがあります。設備を買ってしまってから税理士に相談しても、条件を満たせず制度を適用できないことがあります。
金額の大きい買い物ほど、税額に与える影響も大きくなります。それが「導入する前の計画」が認められたかどうかで変わってしまうのは、経営者にとって窮屈に感じられるところかもしれません。ただ、制度がそう作られている以上、順番を守るしかありません。
3. なぜ、教えてもらえないまま過ぎてしまうのか
ではなぜ、これほど影響の大きい問題が見過ごされてしまうのでしょうか。私たちが見てきた限り、原因は税理士側の怠慢とは限りません。その見過ごしには、次の3つが絡んでいることが多いです。
理由1:税理士と期中に接点がなく、決算のときにしか会っていない
期限つきの選択は、そのほとんどが期中に判断を求められるものです。ところが顧問との接点が決算と申告の時期だけであれば、判断が必要な時期に会話する機会が生まれません。制度の選択が決算の席で話題に出たときには、すでに期限を過ぎていて取り返しがつかない、ということも多くあります。
期中に何を受け取っているべきかについては、顧問税理士は、ふだん何をしてくれる人なのかでも整理していますので、あわせてご覧ください。
理由2:経営者の側の予定が、顧問に伝わっていない
ここは経営者側にも打てる手があります。設備を買う、役員報酬を変える、家族に手伝ってもらう、事業の柱を変える——こうした事業の予定、変化の見込みが事前に共有されていなければ、顧問はそもそも制度の選択の判断の機会が生じること自体に気づけません。
顧問が事前に事業の予定を聞いていなければ、その変化を知るのは、通常、会社から通帳や請求書を受けとったときです。つまり予定が実行された後です。その時点ではもう、選べる制度が減っています。「言わなくても分かってくれるはず」という思い込みは危険のもとで、それは単に情報が届いていないというコミュニケーションの問題です。
理由3:契約の範囲が、記帳と申告だけになっている
契約の内容が記帳と申告書の作成に限られている場合、期中の税務助言はそもそも業務に含まれていないことがあります。この場合、案内が来ないのは契約どおりであって、顧問側の落ち度ではないと言えてしまいます。
必要なのは相手を責めることよりも、契約の範囲を確認し、必要なら契約を巻きなおすことです。顧問料の決まり方については顧問料は何で決まるのかで触れていますが、業務範囲を広げれば費用も変わります。逆に言えば、費用を払っているのに範囲に含まれているはずの業務を受け取っていないなら、そのことを明確にして相手に伝えるべきでしょう。
4. 期限つきの選択に強い顧問は、ここが違う
引き継ぎの場面で、前の顧問の仕事ぶりが素直に伝わってくることがあります。この論点に強い事務所には、共通する特徴があります。
期限に強い顧問の4つの特徴
- 期首(または開業・設立の直後)に、「今期、期限があるものはこれです」という一覧や案内が向こうから届く
- 経営者が意思決定する前に相談が入る仕組みがある。「金額の大きい買い物は、購入を決める前に一報ください」と最初に言われている
- 有利不利を、選ばなかった場合との比較で説明してくれる。「こちらを選べます」ではなく「選ぶ場合と選ばない場合で税額がこう変わります」と示される
- 過去に提出した届出の控えが、いつでも取り出せる状態で整理・共有されている
逆に、これらが一つも当てはまらないとしても、直ちに顧問を変えるべきという話にはなりません。依頼していないから来ていないだけという可能性が、まだ残っています。だからこそ、次の確認が先です。
5. いまの顧問に聞いてみたい、3つの質問
言いにくい話ではありません。責めるニュアンスも含まれません。この3つをそのまま尋ねてみてください。
- 「今期、期限のある届出や選択で、まだ判断できる時間が残っているものはありますか」——いま間に合うものを拾うための質問です。まだ手が打てる余地があれば、この質問で提案を受け取れます
- 「これまでに出してある届出の控えを、一覧でいただけますか」——何が出ていて何が出ていないかが、この依頼で見えます。引き継ぎの場面でも必ず確認する資料です
- 「何かを決める前に相談したほうがよいのは、どんな場面ですか」——今後の漏れを防ぐための質問です。基準を共有しておけば、次からは自然と事前相談を行うようになります
この3つに具体的な答えが返ってくるなら、顧問を変える必要はおそらくありません。足りなかったのは相手の能力ではなく、情報の行き来だったということになります。それが分かるだけで十分な収穫です。
一方、質問しても答えが返ってこない、あるいは「特にありません」で終わってしまう場合は、契約の範囲か体制のどちらかに理由があります。その見分け方は顧問税理士に不満があるときにまず取るべき行動で詳しく扱っています。
決算の席で初めて、届出が出ていないと分かった
個人で事業を始めた方が、初年度の途中から配偶者に事務作業を手伝ってもらい、給与を支払っていました。決算の打ち合わせでその事実を顧問に伝えたところ、その給与を経費として認めてもらうために必要な届出が提出されていないことが判明しました。届出の提出期間は既に過ぎており、その年分については経費に計上できませんでした。ご本人には制度の存在自体が知らされていませんでした。
設備を購入したあとに、顧問へ報告した
法人の代表者が、期の途中で事業用の設備を購入し、顧問にはその報告を決算の打ち合わせで初めて行いました。設備投資に関する優遇制度のなかには、購入前の手続きや使い始める時期が条件になっているものがあり、購入前に相談していれば有利な制度を選択できた可能性がありました。事後の報告だったため、条件を満たせず優遇制度を適用できませんでした。設備を買うこと自体は正しい経営判断でしたが、顧問に伝える順番が逆になっていました。
まとめ ― 期限は待ってくれないが、確認は今日できる
整理します。
- 税金にはあとから直せる間違いと、あとから直せない選択がある。後者は期限を過ぎると戻せない
- 漏れやすいのは、開業・設立の直後、役員報酬を決めるとき、消費税の計算方法を選ぶとき、設備や資産を買うとき
- 漏れる原因は、期中の接点がない・経営者の予定が伝わっていない・契約の範囲外の3つに分かれる
- まずは顧問に3つの質問をしてみる。答えが返ってくるなら、変える必要はない
期限のあるものは、待ってはくれません。ただ、「今期、まだ間に合うものはありますか」と尋ねることは、今日できます。それだけで拾えるものがあるかもしれません。
そして今後のために、決める前に一報を入れる相手がいる状態を作っておくこと。それが、この種の損失をもっとも確実に防ぎます。相手はいまの顧問でも構いません。
※本記事で紹介したご相談の例は、実際にお受けした複数のご相談をもとに、内容を匿名化・再構成したものです。特定の個人・法人を指すものではありません。
よくある質問
届出を出し忘れた場合、あとから出すことはできますか?
制度によって異なりますが、期限が定められている届出は、期限を過ぎるとその期間については適用を受けられないものが多くあります。ただし、過ぎた期間は戻せなくても、翌期以降について改めて選び直せる制度は少なくありません。「もう手遅れだから」と放置すると、その翌期分まで失うことになります。まずは「いま出せるものが残っていないか」を顧問税理士に確認してください。個別の事情によって取れる手は変わりますので、そこも併せて相談する価値があります。
顧問税理士は、こうした届出を必ず案内してくれるものですか?
契約の範囲と、期中にやりとりがあるかどうかで変わります。記帳と申告だけを依頼している場合、期中の税制選択についての助言が業務に含まれていないこともあります。案内がなかったことで相手を責めるより、まず期中に「今期、期限のあるものはありますか」と尋ねてみるほうが解決は速く、損失を防げるでしょう。それでも案内が出てこないのであれば、契約の範囲そのものを見直す必要があるかもしれません。
経営者の側から先に伝えておくべきことは何ですか?
金額の大きい買い物をする予定、役員報酬を変えたいという考え、家族や親族に仕事を手伝ってもらう予定、事業の内容や主な取引先が大きく変わる見込み。この4つは、決めてしまう前に共有しておくと選択肢が残ります。決めたあとでは選べなくなる制度があるためです。迷った段階の相談で構いません。
まずはお気軽にご相談ください
ヒアリングとご提供いただいた資料をもとに、いま間に合うものが残っていないかを一緒に確認します。今の顧問のままで問題がなければ、その旨を率直にお伝えします。「こう聞いてみては」という助言だけで終わることもあります。セカンドオピニオンだけでも構いません。
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