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顧問税理士が「うちの商売」に詳しくないと感じたら

「新しい取引の会計処理をどうすればよいか相談したら、急に返事が遅くなった」「他社はどうしているのかと聞いてみたら、うちみたいな顧問先はいないので分からない、と言われた」——顧問税理士を替えるかどうかで悩んでいる方から、私たちがいちばん多くうかがうのが、この種のご相談です。

このような場合、多くの事業者の方は「自分は見放されたのではないか」「この先生は力不足なのではないか」と受け取ります。ですが、実際によく聞いて事情を確かめると、税理士の能力の問題ではなく、単に事業が税理士の守備範囲の外に出てしまっただけだった、というケースが少なくありません。

両者はよく似て見えますが、取るべき行動はまったく違います。この記事では、その見分け方をお話しします。

1. 「急に対応が悪くなった」の正体

事業を始めたばかりの頃は、どの税理士に頼んでも大きな差は出ません。売上を計上し、経費を集計し、申告書を作る——ここまでの手順は、業種が違っても大きくは変わらないからです。契約した当初、対応に特段不満を感じなかったのは、そのためです。

ところが、事業が伸びて取引の型が変わったり増えたりすると、話が変わります。たとえば次のような場面です。

こうした変化が起きると、それまでの延長線では会計処理の判断がつかなくなります。税理士が新しい取引の型に詳しくない場合、調べれば分かることではあるけれど、確信をもって即答はできないと考えがちです。そして、税理士が確信のない回答をしないよう慎重になると、事業者からすれば「返事が遅くなった」ように見えます。

つまり、税理士の対応が悪くなったのではなく、会計/税務の難易度が上がったということなのです。ここを取り違えると、相手を責める話になってしまい、本当の解決から遠ざかります。

2. 税理士に「詳しい分野」と「そうでない分野」が生まれる理由

税理士は税法全般を扱う資格ですが、実務上、すべての分野に同じだけ詳しいという人はいません。理由は単純で、実務の力は、担当した案件からしか身につかないからです。

ある分野の顧問先を何件も担当していれば、その業界特有の届出、間違えやすい処理、税務調査でどこを見られるかまで、経験として蓄積されます。逆に、その分野の顧問先を一件も持っていなければ、条文は読めても勘所は持っていないでしょう。

あなたの顧問税理士がその分野に詳しくないのは、勉強が足りないからではなく、その分野の顧問先を担当してこなかったからです

ですから、税理士に「御社のような顧問先は他にいないので、そのやり方で正しいか分からない」と言われたとき、その税理士は自分の能力を否定しているわけではなく、単に事実を申告しているだけであると受け取るのが正確です。むしろ、分からないことを分からないと言える税理士のほうが、知ったかぶりをして誤った処理をする人よりも、はるかに安全だと言えます。

いちばん危ないのは「言われないこと」

本当に困るのは、会社のビジネスが顧問税理士の守備範囲の外に出ていることを誰も口に出さないまま、何年も過ぎてしまうケースです。処理はそれらしく続いているので、事業者は問題に気づきません。気づくのは、税務調査で指摘されたときか、後任の税理士が過去の申告を見直したときです。税理士から「自分はこの分野に詳しくない」と言ってもらえたなら、その時点で手を打てるます。そのほうが状況としては好ましいでしょう。

3. 事業の型が変わったときが、見直しどきです

顧問税理士との関係を見直すきっかけは、たいてい「不満が溜まったとき」だと思われています。ですが、実際にご相談が増えるのは、事業のやり方が変わった直後であることも多いです。

これは、税理士の対応が悪くなったわけでも、事業者がわがままになったわけでもありません。事業の形が変われば、顧問に求める役割も変わる。それだけのことです。会社の成長に合わせて取引銀行を増やしたり、使う会計ソフトを入れ替えたりするのと、性質としては同じ話です。

そして、この時期に手を打つことには、はっきりした実益があります。取引の形が変わるときには、たいてい「事前に届け出ておかなければ、適用したいときに適用できない」という手続きがついてくるからです。届出には提出期限があり、期限を過ぎてしまうと、その期についてはもう適用できない、というものが少なくありません。詳しくは「知らなかった」では戻らないものがあるでも触れています。

だからこそ、事業のやり方を変えるときは、変えてから報告するのではなく、変える前に相談する。これが、いまの顧問と続ける場合にも、新しい顧問を探す場合にも、共通して役立つ動き方です。

4. 専門性は、3つの質問で確かめられます

「その分野に詳しい税理士を探したい。でも、相手が詳しいかどうかをどう判断すればいいのか分からない」——これも、たいへんよくいただくご質問です。

ホームページに「◯◯業に強い」と書いてあっても、それが実績を指しているのか、これから力を入れたい分野を指しているのかは、外からは読み取れません。得意分野の表記だけでは、判断材料としては弱いのです。

かわりに、面談の場で次の3つを聞いてみてください。答えを聞けば、経験の有無はかなりはっきりします。

面談で聞く3つの質問

  • 同じような事業のお客様を、いま何件くらい担当されていますか ― 件数を具体的に答えられるかどうかが評価のポイントです。「何件かいます」という返事が返ってきた場合は、具体的な件数を掘り下げて聞いてみてください
  • この事業だと、どんな届出が必要になりますか ― こちらから名前を出さずに聞くのがコツです。経験があれば、その場でいくつか挙げてくれます
  • この分野で、税務調査に立ち会われたことはありますか ― 調査を経験しているかどうかで、どこに気をつけて処理するかの精度が変わります

この3つの質問には、経験のある人にはすぐ答えられ、経験のない人には答えづらいという性質があります。答えに詰まったからといって、その税理士が誠実でないわけではありません。ただ、あなたの事業にとって相性が良いかどうかの判断材料にはなります。

あわせて、その税理士がふだん何をしてくれる人なのか——どの作業までを契約に含めるのか——も、この場で確認しておくと、その後のすれ違いを減らせます。

5. 「詳しい人に代える」の前に、できること

ここまで読んで、すぐに切り替えを考えた方もいるかもしれません。ですが、その前に試していただきたいことが2つあります。

(1)いまの顧問に、率直に聞いてみる

「この分野は、先生のところでどこまで見ていただけますか」と、正面から聞いてみてください。長く付き合っている相手ほど聞きにくいものですが、この質問は相手を責めるものではないので、切り出しやすいはずです。

返ってくる答えは、だいたい次の3つに分かれます。調べて対応すると言ってもらえるのであれば、続ける選択も十分にありえるでしょう。詳しい人と連携して進めると言われた場合も同様です。この分野は引き受けられない、と言われたときに初めて、新しい相手を探す段階に入ります。

不満をどう伝えるかについては、顧問税理士に不満があるときにまず取るべき行動で詳しく書いています。

(2)分野を切り出して、別の人に見てもらう

顧問契約はそのままに、新しく始めた分野についてだけ、別の税理士に意見を聞くという方法もあります。全部を移すよりも負担が軽く、いまの顧問との関係も壊れません。

長く付き合ってきた税理士には、あなたの事業の歴史や、過去にどういう経緯で今の処理になっているのかという蓄積があります。これは新しい相手には簡単には引き継げない財産です。新しい分野に詳しいという理由だけで、その蓄積を手放すのはもったいない、という考えもあります。

まとめ ― 責める話にせず、役割の話にする

整理すると、こうなります。

  1. 税理士の回答が遅くなったのは、対応が悪くなったのではなく、業務の難易度が上がったからかもしれない
  2. 税理士から「その分野には詳しくない」と言われたら、それは能力の否定ではなく事実の申告。言ってもらえたほうが安全
  3. 事業の型が増えたり変わったりしたときは、変わってから報告するのではなく、変わる前に相談する
  4. 相手を探すときは、件数・届出の名前・調査経験の3つを聞けば、経験の有無はかなり分かる
  5. 乗り換えを決める前に、いまの顧問にどこまで見てもらえるかを率直に聞く。分野を切り出して他の相手に相談する手もある

この論点でいちばん惜しいのは、「詳しくないのは失礼だ」という受け取り方をしてしまい、率直に話し合わないまま関係が冷えていくことです。守備範囲の話は、責める話ではなく役割の話です。そう置き直せば、いまの顧問との間でも、驚くほど素直に話が進むことがあります。

まずは、いま自分の事業のどこが変わったのかを書き出して、それを顧問に伝えるところから始めてみてください。

※本記事で紹介したご相談の例は、実際にお受けした複数のご相談をもとに、内容を匿名化・再構成したものです。特定の個人・法人を指すものではありません。また、届出の要否や提出期限は、事業の内容や制度改正によって変わります。実際のご判断にあたっては、その時点の最新の制度をご確認ください。

よくある質問

顧問税理士から「うちには同じような顧問先がいない」と言われました。変えるべきでしょうか?

すぐに結論を出す必要はありません。まず、その一言が何を指しているのかを確かめてください。処理の判断がつかないという意味なのか、その分野の仕事をこれ以上引き受けたくないという意味なのかで、取るべき行動が変わります。前者であれば、調べて対応できる範囲かもしれませんし、その分野に詳しい専門家との連携で解決することもあります。後者であれば、今後どこまでお願いできるのかを率直に話し合う段階です。いずれにせよ、分からないことを分からないと正直に伝えてくれたこと自体は、誠実な対応と受け取ってよいと思います。

税理士がその分野に詳しいかどうかは、どうすれば見分けられますか?

面談で三つ聞いてみてください。ひとつめは、同じような事業のお客様を何件くらい担当しているか。ふたつめは、その事業で必要になる届出や手続きの名前を、こちらから言わずに挙げてもらえるか。みっつめは、その分野で税務調査に立ち会った経験があるか。この三つは、経験のある人にはすぐ答えられ、経験のない人には答えにくい質問です。ホームページに「専門」と書かれているかどうかよりも、はるかに確かな手がかりになります。

事業のやり方を変えるとき、税理士にはいつ相談すればよいですか?

変えてからではなく、変える前にご相談ください。取引の型が変わると、事前に届け出ておかなければ適用できない、という手続きが出てくることもあります。提出期限を過ぎると来期から適用できなくなる税制も少なくありません。「こういうことを始めようと思っている」という段階で税理士に一報を入れておくだけで、防げることがかなりあります。

まずはお気軽にご相談ください

いまの事業のどこが変わったのか、そこで何を確認すべきなのかを、一緒に整理します。いまの顧問のままで問題がなければ、その旨を率直にお伝えします。「この分野についてだけ、こう聞いてみては」という助言だけで終わることもあります。セカンドオピニオンだけでも構いません。

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